わたしの宝物は祖母です。祖母は今、若年性認知症という重い病気にかかっています。最初に祖母に異変が起きたのは、わたしが祖母の家に泊まりに行った時、従兄弟たちと騒いでいて笑っている祖母がわたしの方を向いて従兄弟の名前を呼んできたときでした。従兄弟には、わたしの名前を呼ぶのです。その時はまでこれから起こることなんて知らず、「もう、おばあちゃんたら、名前違うよ。」と笑っていました。わたしは昔、家の庭で綿を種から育てていました。祖母は育った綿を見て、
「あれはなんだい。」
と母に尋ねました。母はわたしがその綿を育てていることを祖母に話しました。ところが祖母はその質問を何度もしたのです。
祖母はそれから趣味の畑仕事をしては収穫してきたものを畑に忘れたり、履き物を左右違った物を履いていたり、服のボタンは一つずつずれていたりミスを度々繰り返すようになっては母やわたしに怒られ、祖母はニコニコと笑っていました。
わたしは小さい頃母が弟を産む時流産しそうになり長い間祖母の家であずかってもらいました。わたしは誰より祖母が大好きでした。祖母の笑顔が大好きでした。祖母のわたしを呼ぶ声が大好きでした。
ある日わたしが祖母の家に行ってドアを開けたらボーッとどこかを見つめて座っている祖母がいました。わたしは祖母に言いました。
「わたしだよ。おばあちゃん。」
祖母はやっとわたしの方を向きニコニコ笑いました。昔とかわらない、いつもの笑顔にあんしんしました。祖母が口をあけました。
「誰だい。」
わたしは涙が出そうになりました。「わたしの大好きなおばあちゃんはどこ?」
自分の家の電話番号を忘れて言えなくなってしまっても最後の最後までわたしの家の番号を忘れないでいてくれたおばあちゃん。車でわたしの家に来ようとして事故してしまったおばあちゃん。車に乗れなくなって自転車になってもまだ、わたしの家に来てくれたおばあちゃん。最後は迷ってこれなくなっちゃったね。どんなミスをしてもニコニコ笑っていたおばあちゃん。わたしの名前を呼ぶおばあちゃん。ベッドの上でずっと天井を見つめて笑いもしない。泣きもしない。おいしいとも、まずいとも言わないおばあちゃん。この数年で祖母はかわってしまった。でもね、わたしどんな祖母でも大好きです。祖母はずっとずっとわたしの大切なおばあちゃんです。
小さいころ、祖母がわたしの面倒を優しい笑顔でみてくれたように、今度はわたしが、おばあちゃんの側にいるからね。ずっとずっといるからね。
祖母と過ごした日々は、わたしの宝物です。その宝物をこれからも祖母と増やしていきたいです。たとえ、祖母がわたしの名前をよべなくても、わたしの事が誰かわからなくても。