日本福祉大学生涯学習センター長賞
「ドリームズ カム トゥルー」

半田市立乙川中学校 2年

木谷 衣利

「五番 夏色。」

大きく片手を突き出し、満面の笑顔とみなぎる喜びで満ちあふれた母と兄が瀬戸市民会館のステージに立っていた。八月九日、NHK が主催する全世界二十五ヵ国に放送される「のど自慢」でのシーンである。

母は、小さいときから歌が好きで、少しでも高いところがあると、そこを舞台に見立てて、振りを交えながらしょっちゅう歌っていたそうだ。昔は小学生がテレビに出て歌う番組があって、母はたくさんの予選を受けて何度かテレビに出演していたそうだ。今でも家に、「どんぐり音楽会」「歌え!ちびっ子」と書かれた看板があるステージで元気に歌う母の写真が飾ってあるからテレビに出たことはどうも本当のようである。母は、日曜のお昼はよくのど自慢を見ていた。きっと、いつか出場したいという夢をもっていたんだと思う。

二年前、半田市にのど自慢がやってくると聞いた母は、早速はがきを送り、見事選考で予選出場の切符を手に入れた。予選に出るだけでも十倍の倍率がある狭き門だ。予選で母は緊張していた。夢の舞台にあと少しというところにきているからであろう。いよいよ母の出番が来た。いつも通り歌えばうまく歌えるはずなのに、何かが少し違っていた。その結果、本選出場という母の夢はかなえられなかった。

母はのど自慢の研究家でもある。歌がものすごく上手でもない人がどうして出場できるのか、どんな服装が好まれているのかなど、今までの情報を分析し、今度出場するための方針を探っていた。娘が父を誘い、娘と父のペアーで出場することは数多く見られるが、息子と母のペアーで出場するというのはここ最近見られない。そこで母は兄と一緒に出場できたらいいなと思っていた。出場資格は高校一年生からである。今年、兄は高校一年生となり、母の夢をかなえることにかなり協力的であった。曲目も兄がのりが良くて、二人の良さが引き出せる「夏色」という「ゆず」が歌う曲を選んだ。予選は、二千四通の中から選ばれた二百五十組の参加者で行われる。昼の十二時半から六時まで永遠と歌い続け、午後七時の審査発表で、見事二十組の中に合格した。喜び合うのもつかの間、明日に向けての打ち合わせで帰路に向かう頃には十時を過ぎていた。次の日は朝の八時からリハーサルの準備のため、会場に入る。私も昨夜、父と作った応援幕をもって、会場入りした。いつも見ることのできない舞台裏は目を見張ることばかりであった。プロデューサーやカメラマンの人が急がしそうに歩き回り、手際よく準備を進めている。大物演歌歌手も歌や話を披露してくれた。本番が近づくにつれて母と兄の緊張は高まり、口数が少なくなっていった。大丈夫かなと思ったけれど、父が「緊張を楽しめ。」「この場に立てる喜びを十分楽しんでこい。」などの言葉をかけて励ましていた。心配していたこともなんのその本番では今までがんばってきた成果を十分に発揮し審査員特別賞を受賞した。夢をもち続け、それに向かって突き進むことで夢はかなえられるということを私より小さくなった母の背中を見て感じることができた。