半田市長賞
「おじいちゃんの魔法の言葉」

半田市立乙川中学校 3年

大和 剛

おじいちゃんは僕を「剛(ごう)ちゃん」と呼ぶ。もう中学校三年生になるのに、呼び捨てにされたことがない。そしてほめる。とにかくほめてくれる。母はテストの点数が悪いと嫌なことを言うけれど、おじいちゃんは必ず「それだけできれば立派。健康が一番。」と言う。

小学校の時の運動会は必ず見に来て、僕のベストショットを撮っていた。かなりの腕前であることは、その写真を見ればよくわかる。そして六年生の運動会が終わった時の帰り際に、母にこう言った。
「十一年間、楽しませてもらってありがとう。」

僕は三人姉弟の末っ子だから、通算すると十一年ってことだ。そんなふうに見ててくれたんだと後から聞いて嬉しかった。徒競争もリレーもいいとこをたくさん見てもらえたから。

実はおじいちゃんは写真より得意なことがある。それは書道だ。腕前は師範代。だから僕たち姉弟は夏休みになると書道の宿題を見てもらうのが恒例行事だ。でも一度として入選した作品がない。なぜなら、おじいちゃんはどんな字を書いてもほめるから上達しないのだ。
「剛ちゃんはいい字を書くなあ。才能があるぞ。」
と、毎年言ってくれていたのに、僕は書道が苦手である。

とにかく走っても泳いでも、クラリネットを吹いても「剛ちゃんはすごいなあ。」と言う。少しくすぐったいけど、本当はその言葉を期待していた。

もう聞けない。今僕は途方に暮れている。父や母にほめてもらうのも嬉しいけどおじいちゃんの「すごいなあ。」ほど信用できない。

僕はおじいちゃんを何度も触った。手も足も顔も頭も。もう一度「剛ちゃん」と言わせたくて、何度も何度も触った。

頭を触わるとおじいちゃんの匂いが手についた。赤ちゃんの頃から知っている整髪料の香りだった。

数え切れないくらいの人がおじいちゃんに会いに来た。僕は思った。「みんなおじいちゃんにほめられたのかな。」と。

僕には甘すぎの普通のおじいちゃんだったけど、外では偉い人だったらしいと、その時知った。厳しい面もあったらしい。偉い人は嫌われることが多いけど、おじいちゃんはこんなに慕われているのだから、やっぱり外でもほめていたのだろう。

おじいちゃんがほめてくれたから、僕は自信を持って生きている。十四年間かけ続けてくれた魔法は、きっと一生解けることは、ないと思う。

僕は絶対忘れないだろう。
「剛ちゃんすごいなぁ。」という魔法の言葉とおじいちゃんの整髪料の香りを。

そして僕もまた、周りの人のいいところをたくさん見つけて、少し照れくさいがほめてみようと思っている。