HTML5 Webook
13/36

 いよいよ東京オリンピック・パラリンピック開催の年を迎えました。しかしながら、マラソンと競歩の会場が北海道に変更されたことからもわかるように、大会期間中の熱中症対策が急務とされています。熱中症を予防するためには、「適切な水分補給と身体冷却」を行うことが重要ですが、この“適切な”というのが難しいのです。例えば、激しい運動中では1時間に2リットル以上も汗をかくことがありますが、脱水を防ぐためには、発汗量に見合った水分と塩分を補う必要があります。一方、マラソンレース中に水分を摂り過ぎたために低ナトリウム血症を引き起こして死亡した例が増えているとの報告もあります。このように、実際にどのくらいの量の水分と塩分が失われ、どのくらいの量を補給すれば良いのかを正確に把握することは困難です。 身体冷却については、実際のスポーツの現場では、水を浴びたり、氷やアイスパックなどを身体に当てて冷やす方法が推奨されていますが、これだけでは不十分との報告もあります。私のゼミでは、“炭酸水“に注目しています。これまでに私が行った研究では、(カテキンを含有した)炭酸水を飲んだり、炭酸温泉へ入浴することで体温調節機能が高まるとの結果を得ています。つまり、炭酸水をうまく利用することでウオーミングアップやクーリングダウンと同じ効果が得られる可能性があるのです。今後は、「炭酸水の飲用」と「炭酸温泉への入浴」を併用することで、夏の暑さに負けない強い身体を作る研究を進めていく予定です。 もう一つの専門分野は宇宙医学です。宇宙から地球に帰還したばかりの宇宙飛行士が、車椅子で運ばれる様子を見たことがある方もいると思います。体力があって健康な宇宙飛行士であっても、宇宙のような重力がほとんどない環境に数週間滞在すると身体が衰えます。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士を対象とした実験では、骨粗しょう症患者の10倍の速さで骨が弱くなり、寝たきり患者の2倍の速さで筋肉が萎縮するとのデータがあります。つまり、宇宙飛行は何十年もかけて起こる身体の衰えが短期間で起こるという“究極の加齢変化モデル”なのです。そこで、ISSに滞在するすべての宇宙飛行士は、身体の衰えを防ぐために“1日に2~3時間程度の運動”を行うことが義務化されており、そのためにISS内には自転車エルゴメータ、トレッドミルそして抵抗負荷装置など最新式のトレーニング機器が完備されています。私たちは、人工重力負荷と運動負荷を組み合わせた装置(写真)を考案し、地上で宇宙環境を模擬した実験を行い、この装置の有効性について検討しました。その結果、かなりの確率で身体の衰えを抑えることができました。今後は、この装置を使って宇宙での長期滞在や火星飛行をめざす宇宙飛行士のトレーニング機器としてのみならず、アスリートのトレーニング機器や高齢者の健康保持増進機器として応用できるように研究を進めていく予定です。炭酸水で夏の暑さに負けない身体を作る身体のメカニズムから、適切な水分補給、入浴、トレーニング法を探る。スポーツ科学部 スポーツ科学科 にしむら なおき西村 直記 准教授先生の研究REPORT宇宙飛行は究極の加齢変化モデルスポーツ生理学、温熱生理学、宇宙医学、温泉医学熱中症予防対策としての飲料摂取および入浴に関する研究専門分野研究テーマ宇宙でのトレーニングのための、人工重力負荷と運動負荷を組み合わせた装置ゼミナール訪問&研究レポート3112

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る