特別賞
「この場所」

知多市立東部中学校 3年

山下 実来やました みく

私には、大好きな場所がありました。その場所とは、私の通っている中学校のすぐ近くです。
七曲公園の東側に広がるみかん畑、そこが私の大好きな場所でした。そのみかん畑には保育園、小学生の頃の思い出がたくさんつまっているのです。

まず、みかん畑といえばみかん狩り。秋になると私の祖母が、知り合いからみかんの木を数本買ってくれます。その年限定ですが、買った木に実ったみかんを、自由にもぎ採って食べることができます。私は幼い頃、みかんがあまり好きではありませんでしたが、それをきっかけにみかんが大好きになりました。秋になると、みかんの木を選ぶのを楽しみにしていましたが、その知り合いのみかん農家さんも後継者が居ないということで、今年が最後になるかもしれないと、毎年おっしゃっていました。でも、何とかみかんの木を守り、おいしいみかんを食べることができていました。しかし一昨年の秋に、
「今年で本当に終わりだよ。」
とおっしゃっていました。私は、当たり前のように、来年も再来年もここのみかんが食べられると思っていました。でも本当に最後でした。なぜなら、七曲公園の東側一帯が、大規模な太陽光発電施設になってしまうことが決定したのです。うわさには聞いていましたが、決定したとなると、やはりショックでした。

みかん畑がなくなってしまうのはもちろんですが、その周辺の景色も大好きでした。緑が多く、とてものどかで私の心を癒してくれました。流星群が出現すると聞けば、夜ふかしをして、そこへ見に行ったこともありました。期待通り、辺りは真っ暗なので、たくさんの流れ星を見ることができました。本当にきれいで、感動したのをよく覚えています。

そんな私の幼い頃の思い出がたくさんつまった場所が、工事が進み太陽光発電の施設になってしまいました。とても残念なことですが、東日本大震災以後、原子力発電から自然エネルギーを利用した発電へとシフトチェンジしていく流れがある中で、このような事態は、仕方がないことなのかもしれません。この場所でなくてもよいのではないかとも思いましたが、他の場所でも、その場所その場所で、いろいろな人の思いがあることでしょう。

私は、「この場所」の思い出をずっと忘れずにいようと強く思います。みかん畑が、太陽光発電施設に変わってしまった今でも、時折、在りし日の景色を思い浮かべます。あのみかんの味も、たくさんみかんを採って手が痛くなったことも、みかんを採り過ぎて重たくて大変だったことも、のどかな景色も、流れ星に感動したことも、そして、流れ星にお願いしたことも、全て私の心の中に思い出として刻まれています。たとえもっと姿が変わってしまっても、私の心には、「この場所」が、在りし日の景色のまま、存在し続けることでしょう。