半田市教育委員会賞
「夏の思い出」

東海市立加木屋中学校1年

信田のぶた なご

 歩道を歩いていると、向かいから人が来てあいさつされる。だれもが一度は経験したことがあるだろう。そして、多くの人は軽く会釈をしてその場を去る。私もその中の一人だった。あの暑い夏までは。

 これは、学校へ向かう途中の出来事だ。夏、私が歩道を歩いていると向こうからおばあさんが歩いてきた。散歩をしているのだろうか。清々しい表情をしている。すると、
「おはよう。行ってらっしゃい。」
とおばあさんは言った。私は、「皆、あいさつをしていないのだから、私一人だけがあいさつすることが恥ずかしい」という思いがあった。だが、なぜか心が動き、私は声を振り絞った。
「おはようございます。行ってきます。」
少し震えてしまっていたのかもしれない。だけど、おばあさんはにこりと笑い、過ぎ去ってゆく。その時、私は心からうれしく思った。また、勇気を振り絞ってあいさつをしたからか、暑いはずなのに私の心はさわやかだった。

 次の日もその次の日もおばあさんと出会い、あいさつをする。少しずつ、会話が増えていくが、そう長くは続かない。でも、少しの言葉だけで、心がすっきりする。毎日、「明日も会えたらいいな。」と思うようになった。だが、気持ちの良い時間はそう長くは続かない。ある日から、おばあさんを見かけなくなった。体調が悪くなってしまったのか、それとも、もう散歩をやめてしまったのかと考えた。さびしい気持ちでいっぱいだった。

 学校の授業で、あいさつについて学習した。その授業では、あいさつは人とつながるための大事なコミュニケーションであると学んだ。私は、おばあさんとの出来事があり、すごく共感した。あいさつによって人とのつながりをもてると実際の体験を通して感じた。あの暑い夏の出来事は、私にとってすてきな思い出になった。私は、今回の出会いを大切にしていきたいと思う。

 人間って不思議だ。ほんの少しの勇気だけで、嬉しい気持ちでいっぱいになるのに、人間は周りの行動に合わせてしまい、あいさつができない。今までの私もそうだった。だが、今の私は違う。あの暑い夏の出来事で私の心は動いた。そして、周りに流されずに自分の意思を大切にできるようになった。これからの生活でも、自分自身の意思を大切にし、自分の気持ちと向き合いたい。あいさつは人とつながる大事なコミュニケーションの一つであることを忘れずに、生活していきたい。

 これからの私の明るい未来へ向けて、今日もまたあいさつをしよう。