特別賞
「少し優しく」

知多市立東部中学校2年

安部あべ まつ

 朝、いつもより少し早い時間に通学路を通っていると、高齢者の方が道を歩いているのが目にとまりました。その人は腰が曲がっているようで、道路沿いのガードレールや、家のフェンスづたいに歩いているようでした。

 今通っている道の少し先へと目をやると、ガードレールも家のフェンスもない道が続いていました。私は、ものづたいに歩いているあの人にとっては、歩きにくいだろうと思い、声をかけました。
「あの、お手伝いしましょうか?」
その人はにこりと笑い、差し出された私の手を取りました。何か言っていましたが、上手く発音できておらず、聞き取れませんでした。その人をガードレールがあるところまで送る間にも、少し会話がありましたが、やっぱり上手く聞き取れず、会話は長続きしませんでした。

 その人と別れるとき、その人ははっきり言うように意識して、
「ありがとう。」
と言いました。そのあとにはもとの話し方にもどって、ばいばい、というような事を言っていました。

 この日の後にも何度かその人に会っていて、会うたびにガードレールのある所まで送っています。その道中も会話をしていて、今では私も大まかにではありますが、言葉が聞き取れるようになってきました。

 その人はいつも別れるときに、
「ありがとう。」
と言って笑ってくれます。少しだけ、自分にできる事をやるだけで、こんなふうに優しくなれるなら、これからも続けていきたいと思いました。

 作文をしながら、ふと、思い出した事があります。祖父母の家に行ったときに、仲良くなった友達のお母さんが話してくれた事です。
「この辺は年寄りが多いからね。困っていそうな人がいたら優しくしなよ。まあ、年寄り相手じゃなくても大事な事だね。」
これを聞いたときは、「はーい。」などと言って流してしまいましたが、今となっては人と付き合ううえで大切な事だと思っています。何気ない会話でしたが、今回のようにふとしたときに思い出すのです。

 私は、この経験を通して、「他人に少し優しくする」事を大切にしていきたいと改めて思いました。仲の良い人はもちろん、苦手な人や嫌いな人を相手にしていても、「少し」優しくすれば、違う面が見られるかもしれない。そうすれば、苦手じゃなくなるかもしれない、嫌いじゃなくなるかもしれないと、私は思っています。