◆実践報告

作業療法学科3期生(2001年3月卒業)
並河 勇志

『精神障害とフットサル』
私は平成13年4月より、愛知県刈谷市の精神科単科の病院に就職し、約半年後にデイケアに異動になって以来、職場が西尾市に変わった今もデイケアに勤務している。 (西尾市は愛知県の中でもそれ程知名度は高くないが、抹茶の生産が日本一であったり、昔ながらの街並みが残っていたりして最近では旅行番組で取り上げられる機会も増えてきている)

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私が現在の職場に移動になったのは、平成16年7月からで、より地域に根差した形でリハビリテーションを行いたいという思いを院長が汲み取ってくれたからだと思っている。
表題のフットサルについては、平成24年より開始した。
私がサッカーをしていることを知っている利用者から、「サッカーがやりたい。教えてほしい。」といった要望が何度か出てきていたことがきっかけだった。
以前、刈谷のデイケアで勤めていた際にもサッカーを活動に用いたことがあった。
居場所の為だけに利用している層と意欲ある若い利用者層を切り離したい、休みの日は一歩も外へ出ないという若年者を何とかしたいという思いでグループを立ち上げた。 希望者には自分たちで名簿を作成し、管理してもらった。 デイケアが休みの日にもお互いに連絡を取り合い練習していた。 年始には『初蹴り会』を自分たちで企画し、私も個人として参加して、練習後のラーメンを一緒にすすったりした。 そこまで形を作り、ある程度は思ったとおりの流れに乗せてきた活動も私が異動になると立ち消えになってしまった。 理由は次の担当者が見つけられなかったことと、当事者主導で行うという点がまだ不十分で意欲を継続させることが困難となったからであろう。
西尾のデイケアに話を戻すと、利用者が増え年齢・症状の幅が広がる状況に合わせ定期的に新しい活動を取り入れながら行ってきたが、どうしてもマンネリ感があり、特に若い利用者からは意欲を引き出し継続させることに難しさを感じていた。
そこで『やりたい』と始めから意欲を持っているものを利用することを考え、サッカーを取り入れることを決めた。 刈谷での失敗経験から課題になるのが意欲の継続ということは分っていたので、そこを埋めるために 『人数が少なくても行えるフットサルを行う』 『対戦相手を複数探し、意欲を引き出す』 『職員主導ではなく、自分たちで作り上げていく』という点を意識しながら始めることにした。
私自身は色々な勉強会などの際に対戦相手を募集するチラシを配布、利用者は近隣施設を調べ宛名書きをし、チラシを郵送することから始めていった。 そうしていく中でフットサルを用いたリハビリテーションに対して興味を持っていた近隣施設の作業療法士2名と繋がりができ、交流試合を行うと共に運営についても3名で話し合うようになった。 交流試合には徐々に参加施設が増え、1回の参加者も50名を超えるようになっていった。
平成25年1月22日、3人で行った第2回会議では静岡県フットサル連盟ハンディキャップ部西部支援長の後藤祥一郎氏を招き、同年2月12日の会議では佐賀県でJリーグのサガン鳥栖と連携し、精神障害者のフットサルのために尽力され、現在は星城大学リハビリテーション学部教授をされている坂井一也先生に参加していただいた。 その会で、「愛知県精神障碍者スポーツ連盟」と組織名を決定し、将来的には愛知県内でリーグ戦と大会を実施することが目標となる。 また、直近の目標として平成25年度の国体オープン競技への愛知県代表チームの派遣を目指し、愛知県大会を実施することが決まった。
その後、愛知県で初めてフットサル県大会を平成25年4月11日、ウィングアリーナ刈谷で8施設のチームで実施。 選手・監督・コーチ総勢77名、応援や観覧だけの方を含めると100名強の方に来場いただいた。中日新聞やケーブルテレビ等を利用した事前の広報活動の成果もあって大会への関心は高く、『新聞で記事を読んで』と、岐阜県から来られた方もみえた。 また、『話だけでも聞かせてもらいたい。』といった当事者や家族、医療や福祉の関係者もみえた。開催できたことだけで、周知活動にもなり、精神障碍者フットサルを愛知県でも盛り上げていくことにも繋がったことを感じた。

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また、この大会を機に、Fリーグ(フットサルの国内プロリーグ)名古屋オーシャンズの協力をいただくことができるようになり、現在でも年に3回程度のフットサルクリニック(障害の有無を含め、参加自由。参加費は会場費500円で指導を受けられる)や、大会(愛知県大会⇒オーシャンズカップに名称変更と、星城カップ)でのアトラクション協力をしていただいている。

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この記事を書いている段階では大枠のみの決定だが、平成27年10月3日には全国大会を愛知県で行う予定でいる。 また、愛知県が誘致している2016年フットサルワールドカップの際の精神障害者部門の大会(第1回ソーシャルフットボール国際親善大会)の開催・運営に関わっていきたいと考えている。
フットサルの活動を通じ、アンケートなどによって参加者の変化を確認したりしている。 以下に添付したグラフはフットサルクリニックに継続して参加されている方を対象に行ったアンケート結果で回答者46名の内、30名が何かしらの項目を選択されている。 自身で感じているフットサルを通じた成長については、体力がついたなど身体的なものだけでなく、自信・意欲・充実感などの項目へのチェックも多い。 複数回答可としたことも影響しているであろうが、体力がついたなどの自身で分かり易いと思われる項目よりも精神的な部分の回答数が多いことに驚いた。

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私自身が感じた変化は数値にはできていないが、チームの凝集性からフットサルの場面ではないところでもお互いに意見を言い合う場面が増えたり、チームメイトの立場に立って考えられるようになったという対人交流や協調性の部分。 「またやりたい」、「負けたくない」、「悔しい」といった思いから次へ向けた意欲の向上といった精神的・社会的な側面への影響も強く感じた。
当デイケアを振り返ってみると2年前に参加した利用者のほとんどは就労し、当初のメンバーは大会当時に仕事が休めれば参加するとった状況になっている。 当然、フットサルをやれば仕事ができると考えているわけではないが、アンケート結果や私自身が肌で感じる変化が影響していると信じている。 反面で複数の施設が入れ替わりで参加者の確保が難しくなっている現状があり、そこから意欲低下を招くのではないかという危機感を持ちながら活動を続けている。
最後になるが、最近「大人になったね」と言われることが増えた。 周囲に助けられて今があると気付いていったからだろう。 新しい環境で、自分自身が苦手としているネットワーク作りにも力を入れた。 家族への支援に力を入れたり、西尾市を障害があっても住みやすいまちにする為の活動を行うNPO法人の立ち上げを行ったりと利用者を取り巻く環境への働きかけも行ってきた。 フットサルだけでなくこういった活動に関しても今後も力を入れていきたいと考えている。 拙い文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
(平成26年11月吉日)

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